2023年5月15日
労働安全衛生法にて
「長時間残業を行った従業員に対して、企業が医師による面談を実施する義務」
が定められています。(労働安全衛生法(昭和 47 年法律第 57 号)第 66 条の8第1項)
厳密には、
「休憩時間を除き一週間あたり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月あたり八十時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であること」
との要件が規定されており、
従業員からの面談申出があった場合に医師による面談の実施が義務と設定されています。(労働安全衛生規則(昭和 47 年労働省令第 32 号)第 52 条の2第1項)
では、従業員の面談申出がなければ企業側は何も対応をしなくてよいのでしょうか?
上記の長時間残業面談の要件に該当する従業員の面談申出がなかった場合、
企業側の医師による面談の実施については努力義務とされています。
また従業員本人の同意なく面談を実施することはできません。
ただし上記の通り、「疲労の蓄積が認められる者」との要件があることから、
該当従業員の疲労の蓄積の有無について企業側が把握することが、企業の安全配慮義務として重要な対応となります。
従業員の疲労蓄積の状況について、「知らなかった」は従業員の健康管理に責任を有する企業の対応として通用しません。
従業員の疲労の蓄積状況を把握するために活用できるのが、
今回ご紹介する「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」となります。
2004年に中央労働災害防止協会より公表され、広く利用されてきた書式です。
この書式が実に19年ぶりに、2023年4月に改正されました。
最新の知見等を踏まえ、中央労働災害防止協会において、
労働者チェックリスト等について新たに項目の追加等の見直しを行い、
食欲、睡眠、勤務間インターバルに関する項目を追加する等の改正が行われました。
以前の書式に比べ、メンタルヘルス関連の項目も追加されており、
従業員の精神的な疲労の蓄積状況についても加味された設問となっています。
「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」等の周知について(基安労発0404第1号 令和5年4月4日) (別紙)新旧対照表、労働者チェックリスト等
どうして長時間残業の管理が必要なのか
もっとも重要なポイントとなるのは、長時間残業を行うことで睡眠時間の確保・疲労回復の確保が難しくなることです。
月80時間超の残業となると、月20日勤務で考えた場合、毎日4時間以上の残業を行う計算となります。
9:00-18:00が定時の仕事だとすれば、毎日22時過ぎまで残業している状況となる数字です。
通勤時間や食事などの家事の時間を踏まえると、睡眠時間の確保が難しい状況が浮かび上がります。
睡眠不足は健康に悪いだけでなく、作業効率の悪化にもつながることが判明しています。
2001 年に公表された脳・心臓疾患の労災認定基準では、
業務の過重性を評価する具体的な負荷要因(労働時間、交替制勤務・深夜勤務、精神的緊張を伴う業務など7つの項目)が示され、
長期間の過重業務の負荷要因としては労働時間が最も重要と判断されています。
長時間残業が続くと身体的な不調だけではなく、精神的な不調が発生するリスクも高まります。
心の健康を取り戻すための職場外での時間(睡眠・休養や家族・友人と過ごす時間)が不足するためです。
勤務中に眠気や疲労を感じる状態では作業効率の悪化に加え、重大な事故発生の原因にもなります。
長時間残業は発生させないこと、発生した際にはしっかりと従業員の健康状態を把握し、必要なフォローを実施することが企業に求められます。
面談実施を確実に実施するために
月80時間以上の残業・休日出勤を行った従業員が発生した場合、企業での確実な医師による面談の実施が求めれます。
企業での事前準備としては、衛生委員会等で調査審議のうえ、以下の①及び②を図ることが有効です。
調査審議の際は、申出を行うことによる不利益取扱いの防止など、申出がしやすい環境となるよう配慮しましょう。
① 申出様式の作成、申出窓口の設定など申出手続を行うための体制の整備
② 労働者に対し、申出方法等の周知徹底
面接指導を実施する医師は、産業医や産業医の要件を備えた医師等が望ましいとされています。
面接指導の実施の事務に従事した者には、その実施に関して守秘義務が課せられますので、従業員にはその旨も事前し安心して面談申出が出来るようにしましょう。
派遣労働者への面接指導は、派遣元事業者に実施義務が課せられます。派遣会社との実施調整が必要となります。
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